わが国では平成13年4月1日よりいわゆる「46通知」に替わる新基準として「医薬品の範囲に関する基準」が発布されたが、この観点からタイ産Pueraria mirifica(プエラリア・ミリフィカ)の乾燥根を粉末としたサプリメント「プエラリア(ガウクルア)」はどう位置づけられるべきか考えてみよう。新基準の食薬区分は、1.物の成分本質(原材料)からみた分類、2.医薬品的な効能効果の解釈、3.医薬品的な用法用量の解釈の3項目について個別に検討するのであるが、ここでは「プエラリア(ガウクルア)」の成分本質のみについて検討する。「プエラリア(ガウクルア)」はタイ北部の少数民族の間で民間薬(回春強壮薬)として用いられてきた(→プエラリア(ガウクルア)は危険なエストロゲン作用物質を含むを参照)ことから、少なくとも「専ら食品として用いられるもの」ではないことは明らかである。したがって、一部のサイトが主張するような、“「プエラリア(ガウクルア)」は薬ではなく食品(100%天然のイモを粉末にしたもの)であり、どんな食べ方をしても害はない”というフレーズは明らかにこの項目に觝触するするものである。また、成分本質が動植物由来物の場合、次のいずれかに相当する場合は医薬品と解釈される。
Pueraria mirifica根の場合、非常に強い生物活性成分ミロエステロール(Miroestrol)(→プエラリア(ガウクルア)は危険なエストロゲン作用物質を含むを参照)を含み、含量は低い(0.002%程度と報告されている)が総体として強い作用を示すに十分な量と考えられる。「プエラリア(ガウクルア)」は同根を粉末としたものなので、当然同レベルの活性成分を含むことは間違いない。ミロエステロールの活性は指定医薬品であるエストラジオール(Estradiol)に匹敵するので、上記3項目のうち3に相当し”保健衛生上の観点から医薬品として規制する必要性がある物”と解釈できる。したがって、「プエラリア(ガウクルア)」はいずれの観点からも「専ら医薬品として使用される成分本質」と考えるべきで食品には当たらない。大半の販売サイトはミロエステロールに言及していないか、あるいは言及していたとしてもその生物活性の強さや、かって医薬品として開発の試みがあったがその薬物特性(前述)ゆえに断念されたことに触れていないのも消費者に対する適切な情報開示の観点から問題である。「プエラリア(ガウクルア)」はいかなる目的であれ服用するには医師、薬剤師の指示が必須であり、専門知識のない個人がサプリメントとして扱えるものではない。
一方、「プエラリア(ガウクルア)」は100%天然のイモを粉末にした食品と喧伝されているのは必ずしも恣意的とはいえない面もある。原産地でもPueraria mirificaの生根は食用に供されているといわれ、本邦のテレビ取材チームが現地で採集、調理して実際に食したという報道もあるからである。本邦産の同属種クズの根と比べて繊維質が少ないので、生の塊根を煮たり焼いたりすれば、おいしいかどうかは別にして食べられることは確かであろう。この観点では「食品」としても構わないと考えられるかもしれない。しかし、Pueraria mirificaは食用として栽培されているわけではなく、野生でも稀少種でもあることを考えると、現地でも食品として日常的に食べられているものではないだろう。食べられるからといって乾燥粉末としたものをいくら摂取しても安全ということにはならないことは、「アマメシバによる健康被害事件」が如実に示している。アマメシバは専ら食品として使われてきたにもかかわらず、健康被害が起きてしまった。上述したように、Pueraria mirificaには指定医薬品に匹敵する生物活性を含むミロエステロールを含むので、安易に摂取すればはるかに危険なことは明らかである。