ギョウジャニンニク(ヒガンバナ科)
Allium ochotense (Amaryllidaceae)

gyojaninniku

→戻る(2009.5.29;仙台市野草園)

【解説】 近畿以北の本州と北海道および東北アジアの亜高山帯に生える多年草で、鱗茎はラッキョウに似る。ノビルと同じネギ(Allium)の仲間であるが、葉は根生して20cmほどの葉柄に1〜3枚つけ、葉身は中空の筒型ではなく偏平、軟質の長楕円〜楕円形で先はやや尖り、揉むとニラより強いニンニク臭を放つ。葉の基部では赤茶色を帯びた繊維状の葉鞘ようしょうが花茎を抱く。花期は6〜7月で、高さ30〜70cmの長い花茎を出し、頂端に白〜淡紫色の6枚の花弁をもつ小さな花が散形状に密集してつく。種子は光沢のある黒色の球形。葉の形態が有毒植物のスズランバイケイソウ類に似ているので、山菜として野生品を採集する場合は注意を要する。漢名を茖蔥カクソウといい、『爾雅じが』に「茖は山蔥なり」とあるのに対し、しん郭璞かくはくが「今、山中に多く此の菜有り、皆人家にうる所の者の如し。茖蔥は細莖にして大葉なり。」を注釈したことで本種に考定され、本草では『本草ほんぞう綱目こうもく(李時珍)で初めて菜類に収載された。『和爾雅わじが(1688年)は茖蔥に“ギャウジャニンニク”の訓をつけ、現在名はこれを継承した。一方で、稲生いのう若水じゃくすいは“ゼンデウニンニク”の訓をつけたが(和刻本『新校正本草綱目』)、禅定忍辱の意といい、本来なら葷辛くんしんとして忌むべきものであるが、「忍辱」すなわち侮辱や苦しみに耐え忍ぶための修行の一環であれば例外的に許され、行者が食用に利用したと考えられたようである。いかにもbackronymバックロニム臭いが、現在ではこの名が広くに通用している。アイヌ民族が多用したとされるので、むしろ別名の“アイヌネギ”の方が名前として正鵠を射ている。旧学名はAllium victorialis subsp. platyphyllumであったが、ユーラシアに広く分布する母種の亜種として区別された。亜種小名は「広い葉」の意であるが、母種も広い葉をもちそれと区別するための亜種小名としては不適当である。今日では独立種とされ、まったく別の種小名が与えられた。因みに新学名の種小名は極東ロシアの“オホーツク”に由来する。
引用文献:References参照。