【解説】 欧州原産の常緑多年草で、独特の芳香があり、茎葉全体に細かい綿毛が生え、経年につれて根元〜下部の茎は木質化する。葉は有柄でやや厚みがある長楕円形の葉は茎に対生し、上面はしわ状で灰緑色、下面は軟毛が密生して白く、先は円形〜鈍形、縁は全縁またはわずかに鋸歯がある。花期は5~7月で、茎先や枝先から総状花序をつけ、淡紫色〜白色の唇形花を咲かせる。葉を咽喉の炎症やうがい薬として、また整腸薬として用いる。ソースなどの賦香料として用いるセージは本種の葉である。いわゆるハーブの中にはアキノベニバナサルビア、オニサルビアなどサルビアの名を冠するものがいくつかあるほか、漢方薬原料になる種としてはタンジンがある。同属在来種にアキノタムラソウ、キバナアキギリなどがある。『薬物誌』ではELELISPHAKON(附図)に相当し、葉と枝を煎じて飲むと、排尿と通経を誘発し、中絶薬になり、髪を黒く染め、止血に有効であり、葉と枝の煎液にワインを加えたものを熱い布に当てて塗ると、陰部のかゆみや悪寒、咳を解消するとある。OINOS ELELISPHAKITESはワインに仕立てたものである。Theophrastusは栽培されているsphakos (“σφακος”)と野生するelelisphakos (“ἐλελίσφακος”)について記載しているが、ディオスコリデスは後者をELELISPHAKONと呼んで「分枝が多く背丈があり、茎に4稜あり、毛が密生して強い香気を発する植物」と記載し、まさにセージの特徴を表している。おそらくsphakosもセージの類であり、欧州南部には多く分布するから、複数の類縁の植物種を含む総称であろう。属名はラテン語の安全・安心・健康を意味するsalvusに由来し、また健康・幸福・繁栄または救いの意であるsalūsや健康を感じる、治癒するという意味のsalvēreにも関連があるとされる。すなわち人々の健康を守り安心感を与えるという意を込めたネーミングといえる。因みに、百科全書『博物誌』を著したことで知られるGaius Plinius Secundus(AD23 or 24年〜79年)すなわち大プリニウスはsphakosをレンズ豆と勘違いしたというが、セージの中には豆状の果実を結ぶ種もある。
引用文献:References参照。