プエラリア(ガウクルア)は未完成のサプリメント
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 ここではタイ産Pueraria mirificaプエラリア・ミリフィカ)の乾燥根を粉末としたサプリメント「プエラリア(ガウクルア)」を他の定評あるサプリメントとの比較により別の視点から評価してみたいと思う。いま、世界で最も売上高の高いサプリメントといえば「イチョウ葉エキス」があげられる。「イチョウ葉エキス」の事実上の世界標準品として学術研究試料として広く用いられるのはドイツシュワベ社のEGb761 (Extractum Ginkgo bilobae)であり、イチョウにもともと含まれる有害物質(ギンコール酸)を除去しているほか、有効成分の含量を一定の水準に保たれているなど、エキス製剤でありながらその品質は極めて高い水準にある(→EGb761(イチョウ葉エキス)とは何かを参照)。これは製造工程だけでなく、イチョウ葉の収穫の段階から含有成分の含量に対してきめ細かく対処しているからに他ならない。他メーカーもEGb761を目標としてその品質水準の維持に多大の努力を払っており、しっかりとした品質管理能力のあるメーカーであればまず心配はないレベルにある。「イチョウ葉エキス」は各成分レベルでの詳細な生物活性評価や臨床試験を含めた活性評価のみならず、エキス製剤としては異例のバイオアベイラビリティに至るまで多くの詳細な基礎研究が行われ、現在でも活発に行われている。その研究結果も多くは信頼できる学術雑誌に報告されている。一方、「プエラリア(ガウクルア)」では成分含量を指標とした品質管理や、エストラジオールに匹敵する強いエストロゲン作用物質ミロエステロール(→プエラリア(ガウクルア)は危険なエストロゲン作用物質を含むを参照)を含むにもかかわらず総ホルモン活性評価を指標とした品質管理は行われていないようである。植物は、一般に、成分含量の変動が激しく、一桁程度の差があるのはごく普通である。服用して胸が大きくなるほどの強いホルモン作用物質が含まれているのであれば、その力価を調節することは必須である。わが国には国際的に見て極めて高い水準にある医薬品規範集「日本薬局方」があるが、タイ薬局方はその水準からはほど遠いといわれる。したがって、原産国で「プエラリア(ガウクルア)」の品質管理が改善される可能性は当面低いとみるべきであろう。また、一部のサイトではタイの学術機関の研究結果を引用しているものの、その成果は米国の学術論文抄録データベースであるCAS (Chemical Abstracts Service)の検索でもヒットせず、現状では通俗雑誌の記事程度にしかならないレベルのものといってよい。また、その基礎研究についてもPueraria mirificaをキーワードとして検索しても40件に満たず、3000件を越すイチョウ葉エキス(EGb761として検索)とは比較にならない。豊胸など美容目的で一定の覚悟をもっているならともかく、健康食品としての効果を期待する目的であれば「プエラリア(ガウクルア)」は選択の対象にならないと断言する。更年期障害の改善や骨粗鬆症の予防などに効果があるとされるイソフラボン(→植物の化学成分:イソフラボノイドを参照)の補給のためであれば、ダイズおよびその派生機能食品という信頼性でははるかに上回るものが既にあるからである。わが国ではダイズは豆腐、納豆、豆乳、湯葉、きな粉などとしてかなり古くから日常的に食されてきたものであり、それも日本という人口一億を越す地域でである。それに比べれば「プエラリア(ガウクルア)」はタイやミャンマーのごく限られた地域の少数民族が利用してきたものに過ぎないし、医薬品としてならいざ知らず、健康食品やサプリメントとして使うには安全なレベルから程遠いものである。また、イソフラボンも適正摂取量が推奨されており、過剰摂取すれば副作用が起きることも留意しなければならない(→イソフラボンも過剰摂取すれば健康障害を起こすを参照)。平成13年度の「食薬区分」の見直しでは、健康食品でもカプセル剤や錠剤として販売できるように規制が緩和された。本来、カプセル剤や錠剤は服用するのに苦痛を伴う医薬品を飲みやすくするためのものである。カプセル化あるいは錠剤化された健康食品は過剰摂取されやすいので、それに伴う副作用が起きやすい。平成15年8月に起きた「アマメシバによる健康被害」はまさにその好例である。アマメシバでは含有成分と健康被害との因果関係がはっきりせず、事前に警告を発することは困難であった。「プエラリア(ガウクルア)」では、今のところ、健康障害事件は発生していない(ホルモン代謝系の撹乱による副作用は深刻にもかかわらず目に見えにくい)のであるが、要注意成分(強力なエストロゲン作用物質)を含むにもかかわらず品質管理が不十分(原産国では未整備の状態である)であり、第二の「アマメシバ事件」が起きても不思議はない状態といってよい。「プエラリア(ガウクルア)」は安全面での基礎研究がより一層望まれる発展途上のサプリメントであり、現状では手を出さない方がよい。