高等植物から生まれた主な医薬品
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 高等植物から創製された医薬品の多くは長い歴史をもつ生薬由来のもの(→高等植物起源医薬品構造式および骨格の類別)であるが、中には薬用としてあまり用いられていない植物からも、次々と有望な薬物が生まれている。その代表例がパクリタキセル(Paclitaxel)なるジテルペン化合物(イソプレノイドの一種)であり、1971年にアメリカオレゴン州の山中に特産するイチイの一種(Taxus brevifolia;イチイ科Taxaceae)から単離された。その後の米国癌研究所(NCI; National Cancer Institute)による臨床試験の結果から強い抗腫瘍活性が認められ、またシスプラチンが抑制作用を示さないような種々の癌細胞に対しても有効であることがわかり、現在では市販されている。パクリタキセルと同じく米国NCIの抗腫瘍活性天然物の組織的開発計画の実施過程で発見された天然成分にカンプトテシン(Camptothecine)がある。最初は中国特産のヌマミズキ科(Nyssaceae)のカンレンボクから単離されたが、その後クロタキカズラ科のクサミズキMerrilliodendron megacarpum、アカネ科のOphiorrhiza mungos、キョウチクトウ科のTabernaemontana alternifoliaにも存在することが明らかとなった。カンプトテシンはわが国の製薬会社により開発が進められ、この誘導体であるイリノテカンとして市販されるに至っている。その他、既に医薬として使用されているものにビンクリスチン(Vincristine)、ビンブラスチン(Vinblastine)なる二量体インドールアルカロイドがある。ともにキョウチクトウ科のニチニチソウから単離されたもので、類似の二量体インドールアルカロイドは近縁植物であるツルニチニチソウ属(Vinca sp.)にも存在する。ビンクリスチン、ビンブラスチンは強い抗腫瘍活性を有し、現在白血病治療薬として用いられる。その他で注目に値するのはイチョウ科イチョウであろう。イチョウはもともと中国原産でわが国に広く栽培される樹木であるが、この葉エキス(EGb761)に脳血管の血流促進作用が認められており、ヨーロッパでは痴呆症の治療薬として用いられている。主成分はギンコライド(Ginkgolides)なるジテルペンであるが、血球凝集素(PAF; platlet agglutinating factor)の阻害作用があり有効成分の一つとされているが、最近では純薬として開発が検討されている。