配糖体(glycoside)について
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1.配糖体は一次代謝産物と二次代謝産物のハイブリッドである

 植物には糖以外の物質とオリゴ糖(糖質の中で少数の糖鎖からなるもの)が結合した成分群があるが、これらを「配糖体はいとうたい(グリコシドglycosideともいう)」と総称し、糖部以外の部分をアグリコン(aglycone)という。これらは糖のヘミアセタールまたはヘミケタール性水酸基と、各種アルコールあるいはフェノール、カルボン酸などの官能基との脱水縮合で生成したものであり、糖が直接結合する原子の種類により、-グリコシド(酸素原子に糖鎖が結合)、-グリコシド(同硫黄原子)や-グリコシド(同窒素原子)、-グリコシド(同炭素原子)に分類する。 一般の二次代謝産物に結合する単糖たんとうはアルドース(aldose)とケトース(ketose)に大別されるが、前者はアルデヒド基、後者はケトン基を有する糖をいう。配糖体を構成する単糖はほとんどアルドースであり、ケトースの例としてはフルクトース(fructose;果糖かとう)のほかごくわずかが存在するにすぎない。
 単糖は光学活性なので二つの光学こうがく異性体いせいたい(enantiomer)が存在し、D系列とL系列に大別される。D系列は5位の絶対配置が(+)-Glyceradehydeに対応するものをいい、逆にL系列は(-)-Glyceraldehydeに対応する。単糖の立体化学についてグルコース(Glucose)を例に挙げて説明するが、天然に存在するグルコースは全てD系列のD-グルコースであるから、図1に記載されたグルコースの立体構造は全てD系列を表わす。グルコースを含め、全ての単糖はアルデヒドまたはケトンが水酸基と5員環ないし6員環のヘミアセタール環またはヘミケタール環を形成する環状構造と環を形成しない直鎖構造があるが、通例、直鎖構造は水溶液中ではごくわずかが存在するにすぎない。環状構造には6員環のピラノース型(glucopyranose)と5員環のフラノース型(glucofuranose)があり、直鎖型を介して図1に示すように平衡状態をなす。通常はピラノース型が優先するが、シクロヘキサンと同様、立体配座異性体(conformer)があり、通例、椅子型(chair form)が優先する。椅子型についても1C44C1の2通りの立体配座異性体があり、1C4型グルコースの場合では水酸基、カルビノール(CH2OH)基が全てアクシャル(axial)に位置し立体障害的に不安定となるので、4C1型グルコースの方が優先する。アグリコンが結合するヘミアセタールまたはヘミケタール性水酸基の位置する1位炭素原子(アノマー炭素と称する)は不斉(キラル)なので、水酸基の配位にはα配位(ヘミアセタール環またはヘミケタール環を平面とした場合、その平面の下側に配向)とβ配位(同上側に配向)の二つの立体異性体が存在することになる。それぞれをα-グリコシド、β-グリコシドと称し、ピラノース型グルコースの場合では、α-D-Glucopyranose、β-D-Glucopyranoseのように記述する。

図1 単糖の立体化学について

stereoisomer_of_sugars

 配糖体として存在する糖はグルコース(Glucose)、マンノース(Mannose)、ガラクトース(Galactose)、フコース(Fucose)、ラムノース(Rhamnose)、アラビノース(Arabinose)、キシロース(Xylose)などアルドース(aldose)のほか、ケトース(ketose)としてフルクトース(Fructose)(図2で四角で囲ったもの)がある。図2に示す単糖の構造式で、ラムノース、アラビノースだけがL系列、残りは全てD系列である。ラムノースは5位の不斉(キラル)炭素上のメチル基が他の糖とは逆の配位なのでL系列となるのだが、アラビノースの場合は絶対配置表示の基準となる炭素が4位であり、それが(-)-Glyceraldehydeに対応するためである。

図2 配糖体を構成する主な単糖

sugars

 ここには植物配糖体で見られる主な糖を挙げた。そのほか、カルビノール(CH2OH)基が酸化されてカルボン酸となった構造をもつ一連の糖をウロン酸(Uronic acid)と総称する。この中で、グルクロン酸(Glucuronic acid;図2)がもっともよく知られ、配糖体の構成糖としてのみならず、各種代謝物の抱合体として生体内に存在する。単糖、オリゴ糖のアルデヒド基やケトン基が還元されて直鎖のポリアルコールとなったものは糖アルコールと称する。もっともよく知られているのは、最近、虫歯予防に歯磨き粉に混入されるキシリトール(Xylitol)である。商業的に利用されているものはキシロースを化学的に還元して製造したものである。そのほか、グルシトール(Glucitol)、マンニトール(Mannitol)などがある。糖類のうち、ジギタリス強心配糖体ジギトキシン(Digitoxin)に含まれるジギトキソース(図2;Digitoxose)のように生物種に特有の糖があるが、これらは一次代謝産物というよりむしろ二次代謝産物に近い存在といえよう。
 高等植物の生産する配糖体の大半は-グリコシドであり、アグリコンとして各種テルペノイド、ステロイド、キノン類、リグナンなど多様なタイプの二次代謝産物がある。植物配糖体は一次代謝産物であるオリゴ糖(糖質の中で少数の糖鎖からなるもの)が結合した”ハイブリッド代謝物”ともいうことができる。一般に、配糖体は水溶性が高いので水(熱水)で抽出されやすく、また配糖体の中に紛れ込むように疎水性成分も同時に抽出されてくる。したがって、もっぱら水(熱湯)抽出液を用いる漢方薬ほか多くの伝統医薬において薬効上でも配糖体の存在は極めて重要である。一般に、配糖体は疎水性の生体膜を透過しにくいのであるが、消化酵素や腸内細菌などの作用で糖鎖が分解されて生成するアグリコンは疎水性で吸収されやすいものが多いので、配糖体を多く含むエキスは経口投与に適したものといえる。生薬ダイオウの瀉下活性成分であるセンノシド(Sennoside)のように生薬特有の薬物輸送システム(Drug Delivery System)ともいうべき存在のものもある(→こちらを参照)。また、アマチャ葉の甘味成分フィロズルチン(Phyllodulcin)はもともとは配糖体(苦味がある)として存在していたものが乾燥時に酵素の作用で糖が切断されて生成したものである。

2.特異的性質をもち、別称される配糖体

 配糖体にはアグリコンの種類により様々な特性や生物活性を示すものがあり、それらの特徴を冠して別に総称することも多い。次に、その主なものを示す。

  1. サポニン
  2. 強心配糖体
  3. 青酸配糖体
  4. 苦味配糖体