ダイオウ(大黄)は別名を「将軍」とも称され、漢方医学においてはもっとも重要な生薬の一つとされている。江戸時代の代表的な実証主義的漢方医である吉益東洞は著書「薬徴」の中でダイオウの薬効について「主通利結毒也。故能治胸満、腹満、腹痛及便閉、小便不利。旁治発黄、瘀血、腫膿。」と記述している。簡単にいえば、「停滞している病毒を排出することにより、胸腹の膨満感、腹痛、便秘、小便の出の悪いのを治す。また、黄疸、血液の停滞による症状、できものも治す。」ということであるが、ダイオウは病気の基となる諸毒を排する作用がある漢方の要薬として認識されていた。通常、漢方薬といえば副作用がないと認識されがちだが、古代中国の本草書「神農本草経」ではダイオウを「治病を主とし、地に応じ、多毒、長期にわたって服用してはならない」薬である”下薬”に分類している。漢方でも抵抗力が低下し、生理機能が衰えた虚証体質の患者には禁忌とされている(→虚実証の診断に関しては漢方医学概説を参照)。現在では漢方処方に限らずダイオウ末、あるいは複方ダイオウ・センナ散などのように配合剤として広く瀉下薬として用いられるが、副作用として腹痛、腹鳴、悪心・嘔吐などが知られている。そのほか、子宮収縮作用や骨盤内臓器の充血作用があるため、妊婦は服用を控えるのが好ましいとされている。授乳婦の場合では母乳中にダイオウの成分(アントラキノンなど)が移行し、そのため乳児が下痢を起こすことがあるので授乳婦もダイオウの服用を控えるべきとされている。ダイオウは英語名をrhuburbと称し古くから欧州でも有用な瀉下薬として使用されており、その使用は原産地中国やその近傍の東アジアに限らず汎世界的である。
ダイオウの基原は日本薬局方では「タデ科Rheum palmatum、R. tangusticum、R. officinale、R. coreanumまたはそれらの種間雑種の根茎」(ママ)とされている。ダイオウは薬用に適さない種(ショクヨウダイオウR. rhaponticumやカラダイオウR. rhabarbarumなどのハーブ系ダイオウ)が混じることがしばしばあり品質管理上の問題点であったが、近年、R. palmatumとR. coreanumの種間雑種(信州大黄)がわが国で創出され、生薬市場で錦紋大黄と称される良品に匹敵あるいはそれ以上の品質であることがわかり、北海道などで栽培、供給されるようになった。ダイオウの薬効成分はセンノシドA(Sennoside A)などのジアンスロン誘導体であるが、真の薬効成分ではない。経口投与でセンノシドは胃、小腸では吸収されずに大腸まで移行し、そこで腸内細菌(ビフィズス菌やペプトストレプトコッカス菌など)による代謝をうけて生成したレインアンスロン(Rheinanthrone)が大腸壁を
刺激して蠕動運動を活発にして瀉下効果をもたらすとされている(図)。このため抗生物質や正露丸のような腸内細菌を減少させるような薬物を投与した場合、ダイオウの瀉下効果は必然的に減弱するので、”薬の飲み合わせ”に十分注意する必要がある。レインアンスロンがダイオウの真の薬効成分であり、センノシドはその前駆体であるプロドラッグということになるが、今のところレインアンスロンを直接瀉下薬として用いることはなさそうである。一つには適当量のレインアンスロンを大腸まで輸送しなければならないというドラッグデリバリー(drug delivery;薬物輸送)上の問題がある。レインアンスロンには激しい嘔吐を起こすという副作用があるので、大腸壁に適度な刺激を与える程度の用量を継続的に輸送するというのは容易ではない。この点、生薬製剤として投与した場合、有効成分センノシドは配糖体(糖が結合したもの)であるから、消化管に吸収されずに大腸まで輸送され、そこで徐々に代謝されて瀉下効果を起こすので、よほどの大用量を投与しない限り副作用が顕在化することは少ない。すなわち、ダイオウはほぼ理想的な薬物輸送系(DDS; drug delivery system)をもっているといえる。もう一つは薬効成分の製造コストであり、このため現在でも精製センノシド製剤(プルゼニド錠剤など)を使うに留まり、依然として生薬製剤が主流である。プルゼニドなどのセンノシド製剤は重篤な便秘に対して用いられるべきであり、通常の瀉下薬としては安価な生薬製剤で十分である。ダイオウは他にラタンニン(Rhatannin)と称されるタンニンが含まれている。ダイオウ末に渋味があるのはこのためである。したがって、大量投与の場合、副成分タンニンの収斂作用により止瀉作用、便秘作用が現れることがある。このため、重篤な便秘、たとえば末期ガン患者が除痛のためモルヒネの大量投与をうけて起きる便秘などにはダイオウを用いるのは避けるべきである。この場合は同じ有効成分を含む生薬センナあるいはセンノシド製剤(プルゼニド錠剤など)が適している。