色素(pigment)について
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 分子内に長波長の光を吸収する発色団をもち、その結果、色を呈する物質群を色素しきそ(pigment)と総称する。天然に存在する色素成分としては次の3つの化合物群が挙げられる。
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1.キノン系色素

 アントラキノン、ナフトキノン類は植物色素として代表的なものである。前者には、アカネquinonesアカネの根に含まれる赤色色素アリザリン(Alizarin)、後者には、ムラサキ科ムラサキの根に含まれる赤紫色色素シコニン(Shikonin)が挙げられる。いずれもカルボニル基と水素結合する水酸基を有し、多くの金属酸化物とキレート結合して種々の色を呈するので、古来染料として用いられてきた。ムラサキの根は生薬シコン(紫根)として紫雲膏などの漢方方剤に配合されるが、シコニンには抗炎症、毛細血管透過性抑制作用、急性浮腫抑制作用、殺菌作用、抗腫瘍作用などが報告され、薬効上重要な成分と目される。

2.フラボノイド系色素

 フラボノイドとはシキミ酸経路酢酸-マロン酸経路の複合経路で生合成されflavonoidsる1,3-ジフェニルプロパノイド骨格を有する物質の総称であるが、そのうちでカルコン、フラボン、フラボノール骨格を有するものが色素として存在する。これらはごく普通に存在するものである。花を生薬コウカ(紅花)として用いるキク科ベニバナには水溶性の紅色色素カルタミン(Carthamine)、黄色色素サフラワーイエロー(Safflower yellow)が含まれるが、これらは特異な構造を有するカルコン配糖体である。植物の花の色は多様であるが、その大半はアントシアンと称する色素によるものである。アントシアンには2-フェニルベンゾピリリウム骨格を共通構造としてもつアントシアンジンと、その配糖体であるアントシアニンがある。アントシアニジンもフラボノイドの一種であるが、アントシアンジンのヘテロ環部はオキソニウムイオンとして存在し得意な化学的性質をもつため区別されている。つまり、オキソニウムイオンの存在により強い塩基性を呈し、酸性状態では安定であるが、中性から塩基性では極めて不安定となり速やかに退色する。アントシアンの多様な発色は、pHの変化、共存する金属イオンとの錯体の形成のほか、複数のアントシアン分子あるいは他のフラボノイド系類似分子間が介合してできる”超分子”の形成によるco-pigmentationなど、様々な要因が関与する結果と説明されている。

3.カロテノイド系色素

 緑色植物とある種の微生物により産生される黄色ないし赤色の水に不溶のポリエン系色素をカロテノイドと称する。生合成的には2分子のゲラニルゲラニルピロリン酸がtail-to-tailで結合してできるC40の中間体から誘導される(→イソプレノイド生合成参照。アヤメ科サフランのめしべやアナネ科クチナシの果実に含まれる水溶性色素クロシン(Crocin)、南米原産のベニノキ科ベニノキBixa orellanaの果実に含まれる親油性色素ビキシン(Bixin)はアポカロテノイドと称されるもので、いずれも食品染色に用いられている。特に、ベニノキ果実から抽出された粗色素をアナトー(Anatto)と称して広く麺類などの色付けに用いられる。