生薬の薬効について
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1.生薬は多成分系薬物である:その薬効は?

 医薬品においてもっとも重要なことはそれがどのような症例に適用されるか、すなわちどのような効能、効果を有するかということである。また、薬学においては各医薬品の本質を理解するためにも薬物を薬効に基づいて分類することは極めて重要なことである。しかし、現状では全ての薬物の作用機序が解明されているわけではないので、適用対象や、時に化学構造による特徴を基にして分類することもあって、便宜的な点も多分に残されている。単一成分であっても、通例、複数の作用を示し、期待する薬効以外の作用で治療上不都合なものがいわゆる副作用といわれるものである。生薬は多種多様な化学物質からなる多成分系薬物である(→生薬の特徴へリンク)ので、その薬効分類となると単一成分の薬物より更に困難を伴う。中には薬理作用の相反する成分が共存する場合が少なからず存在することも生薬の薬効分類を複雑にしている。例えば、ダイオウは一般的にはアントラキノンやセンノサイドに基づく瀉下剤として分類されるが、投与量をある程度増加するとタンニンの効果が現われて止瀉作用も示すようになる。一般的に生薬は合成医薬などに比べて、作用が緩和であり、明瞭な実験的データに基づいて評価することは困難である場合が多い。また、漢方処方に配合される生薬の多くは単味で使うことは稀なので、漢方処方としての薬効分類に帰属させることはできない。漢方処方剤自体も薬効評価という観点で他の多くの生薬と同様な問題を抱えており、実験的に薬効の評価されているものはごく少数にすぎない。現在では長い歴史に裏打ちされた伝承医薬として、むしろ文化遺産的な扱いを受けて認可されているというのが実情である。しかし、1991年度より厚生省は漢方処方剤の薬理的再評価にのりだし、その用途を実験的に証明されたものに限るという方針を打ち出しているので今後の漢方処方剤の動向に深い関心がよせられている。無論、生薬の中にも少数ながらはっきりした薬効をもつものもあるが、いずれも強い作用をもつ成分を主成分として含むもの(例えばアヘン、ジギタリスなど)であり、現在ではこれらは生薬としてよりむしろ単離精製した成分を医薬品として使う傾向にある。
 ここにあげた薬効分類は日本薬局方解説書に記載されたものを一部修正して作成したものである。成分は各生薬の主な成分をあげた。この中には薬効分類と関連して明らかに有効と認定されているものもあるが、多くは未確認であり今後の研究の進展に待たねばならないものである。その生薬の特異的成分で含量も少なくないものであれば、有効成分である可能性は高いと考えられるので、次の表にはそのような観点で各生薬に含まれる成分総称名と成分名をあげてある。

2.治療薬以外の生薬の用途について

 日本薬局方において生薬と定義されているもの(→生薬総則)の中には「細胞内容物」、「分泌物」、「抽出物」も含まれる。これらの中には製剤材料として薬効以外の用途のあるものが多い。例えば、細胞内容物とされる精油類には賦香料として用いるものがあるし、ろうや脂肪油の多くは基材として用い、デンプン類はもっぱら賦形剤として利用する。分泌物とされる中では、アラビアゴム、トラガント、ロジンは乳化懸濁剤、粘着剤あるいは結合剤として用いられ、抽出物とされるカンテンやゼラチンは粘滑剤、包摂剤などとして用いる。これらは一般通念では生薬とは考えられていないものであるが、通常、生薬として用いられるものでもこのような用途のあるものがある。例えば、アマチャは丸薬などの矯味剤としてしばしば用いる。

表1 生薬の薬効別分類

薬効群/生薬名 成分総称名 成分名
【消化器官用薬】
1.制酸薬
ボレイ Ostreae Testa 無機物 炭酸カルシウム
2.健胃薬
オウゴン Scutellariae Radix フラボノイド(フラボン) Baicalin
コウジン Ginseng Radix Rubra サポニン Ginsenoside Rg1, Rb1
ソウジュツ Atractylodis Lanceae Rhizoma 精油(セスキテルペン) Atractylodin
ダイオウ Rhei Rhizoma アンスロン Sennoside A,B
アントラキノン Chrysophanol, Emodin
チクセツニンジン Panacis Japonici Rhizoma サポニン Chikusetsusaponin IV
ニンジン Ginseng Radix サポニン Ginsenoside Rg1, Rb1
3.苦味健胃薬
オウバク Phellodendri Cortex ベンジルイソキノリンアルカロイド Berberine
オウレン Coptidis Rhizoma ベンジルイソキノリンアルカロイド Berberine
ゲンチアナ Gentianae Radix 苦味配糖体(セコイリドイド) Gentiopicroside
コロンボ Calumbae Radix ベンジルイソキノリンアルカロイド Palmatine
センブリ Swertiae Herba 苦味配糖体(セコイリドイド) Swertiamarin
ニガキ Picrasmae Lignum 苦味成分(クァシノイド) Quassin
ホミカ Strychni Semen インドールアルカロイド Strychnine
ユウタン Fel Ursi 胆汁酸 Ursodeoxycholic acid
リュウタン Gentianae Scabrae Radix 苦味配糖体(セコイリドイド) Gentiopicroside
4.芳香健胃薬
ウイキョウ Foeniculi Fructus 精油(フェニルプロパノイド) Anethole
ガジュツ Zedoariae Rhizoma 精油(セスキテルペン)  
キジツ Aurantii Fructus Immaturus 精油(モノテルペン) (+)-Limonene
フラボノイド(フラバノン) Hesperidin
アルカロイド Synephrine
ケイヒ Cinnamomi Cortex 精油(フェニルプロパノイド) Cinnamaldehyde
コウボク Magnoliae Cortex 精油(セスキテルペン)  
ベンジルイソキノリンアルカロイド Magunocurarine
ネオリグナン Magnolol, Honokiol
シュクシャ Amomi Semen 精油(テルペン類)  
ショウズク Cardamomi Fructus 精油(モノテルペン)  
ソヨウ Perillae Herba 精油(モノテルペン) (-)-Perillaldehyde
チョウジ Caryophylli Flos 精油(フェニルプロパノイド) Eugenol
タンニン  
チンピ Aurantii Nobilis Pericarpium 精油(モノテルペン) (+)-Limonene
フラボノイド(フラバノン) Hesperidin
アルカロイド Synephrine
ハッカ Menthae Herba 精油(モノテルペン) (-)-Menthol
ビャクジュツ Atractylodis Rhizoma 精油(セスキテルペン) Atractylon
モッコウ Saussureae Radix 精油(セスキテルペン)  
ヤクチ Alpiniae Fructus 精油(セスキテルペン)  
5.辛味健胃薬
トウガラシ Capsici Fructus 辛味成分 Capsicin
6.芳香苦味健胃薬
ゴシュユ Evodiae Fructus 精油(モノテルペン)  
インドールアルカロイド Evodiamine, Rutaecarpine
アルカロイド Synephrine
コンズランゴ Condurango Cortex ステロイド配糖体  
トウヒ Aurantii Pericarpium 精油(モノテルペン) (+)-Limonene
フラボノイド(フラバノン) Naringin
苦味成分(リモノイド) Limonin
アルカロイド Synephrine
7.芳香辛味健胃薬
サンショウ Zanthoxyli Fructus 精油(モノテルペン)  
辛味成分 Sanshool
ショウキョウ Zingiberis Rhizoma 精油(モノ、セスキテルペン)  
辛味成分 [6]-Gingerol
8.止瀉薬
アセンヤク Gambir カテキン (+)-Catechin, (+)-Epicatechin
アヘン Opium ベンジルイソキノリンアルカロイド Morphine, Codeine
オウバク Phellodendri Cortex ベンジルイソキノリンアルカロイド Berberine
オウレン Coptidis Rhizoma ベンジルイソキノリンアルカロイド Berberine
クジン Sophorae Radix アルカロイド Matrine
ゲンノショウコ Geranii Herba タンニン Geraniin
センブリ Swertiae Herba 苦味配糖体(セコイリドイド) Swertiamarin
9.整腸薬
アカメガシワ Malloti Cortex タンニン、フェノール性成分 Bergenin
アセンヤク Gambir カテキン (+)-Catechin, (+)-Epicatechin
ケツメイシ Cassiae Semen アントラキノン Chrysophanol, Emodin
ゲンノショウコ Geranii Herba タンニン Geraniin
10.瀉下薬
アロエ Aloe アンスロン Barbaloin
アントラキノン Aloe-emodin
エイジツ Rosae Fructus フラボノイド(フラボノール) Multiflorin A
ケツメイシ Cassiae Semen アントラキノン Chrysophanol, Emodin
ケンゴシ Pharbitidis Semen 樹脂配糖体  
ジュウヤク Houttuyniae Herba フラボノイド(フラボノール) Quercitrin, Afzerin
センナ Sennae Folium アンスロン Sennoside A, B
アントラキノン Chrysophanol, Emodin
ダイオウ Rhei Rhizoma アンスロン Sennoside A, B
アントラキノン Chrysophanol, Emodin
11.鎮痛・鎮痙薬
アヘン Opium ベンジルイソキノリンアルカロイド Morphine, Codeine
エンゴサク Corydalis Tuber ベンジルイソキノリンアルカロイド (+)-Corydaline
カンゾウ Glycyrrhizae Radix 甘味成分(サポニン) Glycyrrhizin
コウボク Magnoliae Cortex 精油(セスキテルペン)  
ベンジルイソキノリンアルカロイド Magunocurarine
ネオリグナン Magnolol, Honokiol
シャクヤク Paeoniae Radix モノテルペン配糖体 Paeoniflorin
ベラドンナコン Belladonnae Radix トロパンアルカロイド l-Hyoscyamine, Scopolamine
ロートコン Scopoliae Rhizoma トロパンアルカロイド l-Hyoscyamine, Scopolamine
12.消化薬
ユウタン Fel Ursi ステロイド(胆汁酸) Ursodeoxycholic acid
13.抗潰瘍薬
アカメガシワ Malloti Cortex タンニン、フェノール性成分 Bergenin
【循環器官用薬】
1.強心薬
ジギタリス Digitalis 強心配糖体 Digitoxin
センソ Bufonis Venenum 強心ステロイド Resibufogenin
2.利尿薬
キササゲ Catalpae Fructus 配糖体(イリドイド) Catalposide
サンキライ Smilacis Rhizoma サポニン、デンプン  
ジュウヤク Houttuyniae Herba フラボノイド(フラボノール) Quercitrin, Afzerin
ソウハクヒ Mori Cortex フラボノイド、ステロイド  
モクツウ Akebiae Caulis サポニン  
【呼吸器官用薬】
1.鎮咳薬
アヘン Opium ベンジルイソキノリンアルカロイド Morphine, Codeine
2.鎮咳去痰薬
カンゾウ Glycyrrhizae Radix 甘味成分(サポニン) Glycyrrhizin
フラボノイド(フラバノン、カルコン)  
キキョウ Platycodi Radix サポニン  
キョウニン Armeniacae Semen 青酸配糖体 Amygdalin
シャゼンソウ Plantaginis Herba フラボノイド(フラボン) Plantaginin
配糖体(イリドイド) Aucubin
マオウ Ephedrae Herba アルカロイド l-Ephedrine
3.去痰薬
オンジ Polygalae Radix サポニン  
シャゼンシ Plantaginis Semen フラボノイド(フラバノン) Plantagoside
配糖体(イリドイド) Aucubin
粘液多糖体 Plantasan
セネガ Senegae Radix サポニン  
トコン Ipecacuanhae Radix イソキノリンアルカロイド Emetine
【滋養保健強壮薬】
1.保健強壮薬
コウカ Carthami Flos 色素(カルコン) Carthamin
コウジン Ginseng Radix Rubra サポニン Ginsenoside Rg1, Rb1
サフラン Crocus 色素(アポカロテノイド) Crocin
ジオウ Rehmanniae Radix イリドイド  
ニンジン Ginseng Radix サポニン Ginsenoside Rg1, Rb1
2.滋養強壮薬
インヨウカク フラボノール配糖体 Icariin
オウセイ 粘液質  
カシュウ アントラキノン Chrysophanol, Emodin
クコシ カロテノイド  
シゴカ フェニルプロパノイド配糖体 Eleutheroside B
トチュウ リグナン Pinoresinol
イリドイド Eucommiol
ゴム状高分子化合物 Gutta-percha
ハチミツ Mel 糖類 転化糖、ショ糖
レンニク ベンジルイソキノリンアルカロイド  
【皮膚疾患用薬】
1.痔疾用薬
シコン(外用)Lithospermi Radix ナフトキノン Shikonin
2.皮膚刺激薬
トウガラシ(外用)Capsici Fructus 辛味成分 Capsicin
3.その他
ヨクイニン Coicis Semen 多糖体・グリセライド デンプンなど
【尿路疾患用薬】
ウワウルシ Uvae Ursi Folium 配糖体(ヒドロキノン) Arbutin
タンニン  
【駆虫薬】
サンショウ Zanthoxyli Fructus 精油(モノテルペン)  
辛味成分 Sanshool
ビンロウジ Arecae Semen アルカロイド Arecoline
マクリ Digenea アミノ酸 α-Kainic acid
【婦人薬】
コウブシ Cyperi Rhizoma 精油(セスキテルペン)  
シャクヤク Paeoniae Radix モノテルペン配糖体 Paeoniflorin
センキュウ Cnidii Rhizoma フタリド  
センコツ Nupharis Rhizoma アルカロイド  
トウキ Angelicae Radix フタリド  
ボタンピ Moutan Cortex フェノール Paeonol
レンニク ベンジルイソキノリンアルカロイド  
【精神神経用薬】
1.鎮静薬
カノコソウ Valerianae Radix 精油(モノ、セスキテルペン)  
2.鎮痛薬
アヘン Opium ベンジルイソキノリンアルカロイド Morphine, Codeine
3.消炎鎮痛薬
カンゾウ Glycyrrhizae Radix 甘味成分(サポニン) Glycyrrhizin
サンシシ Gardeniae Fructus イリドイド Geniposide
ボウイ Sinomeni Caulis et Rhizoma ベンジルイソキノリンアルカロイド Sinomenine

表2 主な漢方処方薬

イレイセン Clematidis Radix ウィキョウFoeniculi Fructus
ウコン Curcumae Rhizoma ウヤク Linderae Radix
エンゴサクCorydalis Tuber オウギAstragali Radix
オウゴンScutellariae Radix オウバクPhellodendri Cortex
オウレンCoptidis Rhizoma オンジPolygalae Radix
カシュウ Polygoni Multiflori Radix カッコンPuerariae Radix
カロコンTrichosanthis Radix カンキョウ Zingiberis Processum Rhizoma
カンゾウGlycyrrhizae Radix キキョウPlatycodi Radix
キクカ Chrysanthemi Flos キジツAurantii Fructus Immaturus
キョウカツ Notopterygii Rhizoma キョウニンArmeniacae Semen
クコシ Lycii Fructus クジンSophorae Radix
ケイガイSchizonepetae Spica ケイヒCinnamomi Cortex
コウカCarthami Flos コウブシCyperi Rhizoma
コウボクMagnoliae Cortex ゴシツAchyranthis Radix
ゴシュユEvodiae Fructus ゴボウシ Arctii Fructus
ゴミシSchisandrae Fructus サイコBupleuri Radix
サイシンAsiasari Radix サンシシGardeniae Fructus
サンシュユCorni Fructus サンショウZanthoxyli Fructus
サンソウニン Zizyphi Semen サンヤクDioscoreae Rhizoma
ジオウRehmanniae Radix シコンLithospermi Radix
ジコッピ Lycii Cortex シツリシ Tribuli Fructus
シャクヤクPaeoniae Radix ジャショウシ Cnidium Monnieris Fructus
シャゼンシPlantaginis Semen シャゼンソウ Plantaginis Herba
ジュウヤクHouttuyniae Herba シュクシャAmomi Semen
ショウキョウZingiberis Rhizoma ショウズクCardamomi Fructus
ショウマCimicifugae Rhizoma シンイ Magnoliae Flos
センキュウCnidii Rhizoma センコツNupharis Rhizoma
ソウジュツAtractylodisLanceae Rhizoma ソウハクヒMori Cortex
ソボク Sappan Lignum ソヨウPerillae Herba
ダイオウ Rhei Rhizoma タイソウZizyphi Fructus
タクシャAlismatis Rhizoma チモAnemarrhenae Rhizoma
チョウジCaryophyli Flos チョウトウコウ Uncariae Uncis cum Ramlus
チョレイPolyporus チンピAurantii Nobilis Pericarpium
テンマ Gastrodiae Tuber テンモンドウ
トウガシ Benincasae Semen トウキ Angelicae Radix
トウニンPersicae Semen トチュウ Eucommiae Cortex
ニンジン Ginseng Radix ニンドウ Lonicerae Folium cum Caulis
バイモ Fritillariae Bulbus バクモンドウOphiopogonis Tuber
ハチミツMel ハッカMenthae Herba
ハマボウフウGlehniae Radix cum Rhizoma ハンゲPinelliae Tuber
ビャクシAngelicae Dahuricae Radix ビャクジュツAtractylodis Rhizoma
ビワヨウ Eriobotryae Folium ビンロウジArecae Semen
ブクリョウHoelen ブシ Processi Aconitii Radix
ヘンズ Dolichi Semen ボウイSinomeni Caulis et Rhizoma
ボウフウSaposhnikoviae Radix ボタンピMoutan Cortex
ボレイOstreae Testa マオウEphedrae Herba
マシニン Cannabis Fructus モクツウAkebiae Caulis
モッコウSaussureae Radix ヨクイニンCoicis Semen
リュウコツ Fossilia Ossis Mastodi リュウタンGentianae Scabrae Radix
リョウキョウ Alpiniae Officinari Rhizoma レンギョウForsythiae Fructus
レンニク Nelumbis Semen